伝統と革新の狭間で揺れる「白い黄金」:和三盆が2026年の世界市場で脚光を浴びる理由
和 三盆 と は、徳島県と香川県の一部でのみ作られる、日本が世界に誇る最高級の砂糖である。一般的な白砂糖とは一線を画し、口に入れた瞬間に淡雪のように消え去る独特の口溶けと、後に残らない上品な甘みが特徴だ。古くから和菓子の高級素材として重宝されてきたこの伝統食材が今、国境を越えて世界のトップシェフたちを魅了している。
世界的な和食ブームやナチュラル志向の潮流の中で、和 三盆 と は単なる甘味料ではなく、日本の職人技が凝縮されたアートピースであると再評価され始めた。だが、その華やかなスポットライトの裏側で、原材料となる在来種サトウキビの絶滅危機や、過酷な手作業を担う職人の高齢化という深刻な問題が進行している。
職人の手が生み出す「三盆」の由来と驚異の製法

和三盆の製造工程は、現代の工業化された砂糖作りとは対極にある。名前の由来となった「盆の上で砂糖を三度揉む(研ぐ)」という作業は、今も熟練の職人による手作業で行われている。サトウキビを絞った汁を煮詰め、結晶化させた「白下糖(しろしたとう)」を麻布に包み、圧力をかけて蜜を抜く。この「押し」と「研ぎ」と呼ばれる揉み作業を何度も繰り返すことで、独特のまろやかさと微細な粒子が生まれるのだ。
機械化できないこの繊細な力加減こそが、和三盆の命である。職人の手の感覚だけで、その日の気温や湿度に合わせた最適な調整が行われている。
2026年の危機:温暖化が脅かす在来品種「竹糖」の栽培
和三盆の原材料となるのは、主に「竹糖(ちくとう)」と呼ばれる細いサトウキビだ。一般的なサトウキビに比べて背が低く、収穫量も極めて少ない。この竹糖が今、地球温暖化に伴う異常気象の直撃を受けている。
徳島県阿讃山脈の麓では、夏の猛暑と極端な少雨により、竹糖の糖度が上がりにくくなる現象が報告されている。農家の高齢化も手伝い、作付面積は年々減少の一途をたどる。伝統の味を守るための土台が、気候変動という抗えない力によって揺らいいでいるのだ。
パリの星付きシェフも熱視線、フレンチやスイーツへの進出
この危機的状況の一方で、海外での需要は爆発的に伸びている。特にフランス・パリのパティスリーや一流レストランのシェフたちが、和三盆の持つ「雑味のない甘み」と「素材を引き立てる力」に注目している。
ある有名ショコラティエは、「和三盆はカカオ本来のフルーティーな酸味を邪魔しない唯一の砂糖だ」と絶賛する。生クリームやフルーツの風味を極限まで引き出すための「隠し味」として、世界の製菓業界でその地位を確立しつつある。
白砂糖とは何が違う?ミネラルと独特の風味の秘密
私たちが普段使っている上白糖やグラニュー糖は、遠心分離機で完全に蜜分を取り除いた純度の高い「ショ糖」の結晶だ。これに対して和三盆は、手作業で適度に蜜分を残すため、カルシウムやカリウムなどのミネラル分が豊富に含まれている。
このわずかに残された蜜分こそが、和三盆特有のコクと、どこか懐かしい風味の正体である。単に甘くするだけでなく、料理や菓子に深い奥行きを与える性質は、科学的な精製プロセスでは決して再現できない。
デジタル技術で伝統を継承する、阿波・讃岐の新たな挑戦
後継者不足に悩む生産現場では、新たなテクノロジーの導入も始まっている。職人の「研ぎ」の技術をセンサーで数値化し、熟練の力加減やタイミングをデータとして記録する試みだ。
「勘と経験」の世界だった伝統技術を可視化することで、若手への技術伝承のスピードを飛躍的に高めることができる。頑なに伝統を守るだけでなく、存続のために最新技術を受け入れる柔軟な姿勢が、産地に新たな風を吹き込んでいる。
日常の贅沢へ:現代のライフスタイルに溶け込む新しい楽しみ方
かつては冠婚葬祭や茶席の高級和菓子としてしか目にする機会がなかった和三盆だが、最近ではカジュアルな商品も増えている。コーヒーや紅茶に溶かして楽しむための個包装タイプや、日常の料理に使うための粉末タイプが人気を集めている。
忙しい現代社会だからこそ、ほっと一息つく瞬間に本物の甘みを味わいたい。そんな消費者のマインドシフトが、和三盆をより身近な存在へと変えつつある。日本の風土と職人の魂が育んだこの「白い黄金」は、形を変えながらも、次の世代へと確実に受け継がれていくだろう。 (出典: 和 三盆 と は(Yahoo!ニュース))