「どやさ!」の熱気は令和の劇場にも——今いくよ・くるよ師匠が遺した「肯定の笑い」と女性漫才の地平
いくよ くる よ 師匠が舞台袖から軽やかに走って登場し、サンバの衣装のような絢爛豪華なドレスで客席を包み込んだ光景は、上方漫才の歴史における決定的な記憶だ。細身で鋭いツッコミを繰り出す今いくよ師匠と、お腹をポコポコと叩いて「どやさ!」と叫ぶ今くるよ師匠。二人が築き上げた漫才のスタイルは、単なる昭和・平成のレジェンドにとどまらず、2026年の今もなお新たな世代の芸人たちを突き動かす巨大なエンジンであり続けている。
演芸場に足を運ぶ若い観客の間で、かつてのテレビ映像や劇場アーカイブが改めて再評価されている。SNSで切り抜かれた動画がミリオン再生を記録する現象が相次ぐ中、いくよ くる よ 師匠が提示した「互いを称え合い、身体性を前向きな笑いに転換する手法」は、ルッキズムや自己否定が問題視される現代社会において、驚くほど先進的なメッセージとして響く。なぜ彼女たちの漫才は古びないのか。その秘密と遺産を追った。
1. 女優ルーツから漫才界へ:男社会の壁を打ち破った「ド派手な革新」

1970年代、漫才界は圧倒的な男社会だった。女性芸人といえば、男性芸人の引き立て役か、控えめな掛け合いに終始することが多かった時代だ。そこへ高校のソフトボール部からの大親友だった二人が飛び込んだ。元OLやタレント活動を経て結成された「今いくよ・くるよ」は、当時の常識を根底から覆す。
「女性が体を張って笑いを取るなんて」という古い偏見を、圧倒的なセンスと華やかさで吹き飛ばした。つけまつげをなびかせ、派手なスパンコールを纏った二人の登場は、演芸場を一瞬で華やかなショーケースへと変貌させたのだ。
2. 「どやさ!」という魔法の言葉:ボディポジティブの先駆け

くるよ師匠の代名詞である「どやさ!」。この一言には、あらゆる違和感や他者の視線を力ずくでポジティブに変換する力があった。体型を弄る自虐ネタは一歩間違えれば悲壮感が漂う危険を孕むが、二人の手にかかれば「これこそが最高の個性」という誇りへと昇華された。
互いの見た目をいじりながらも、根底には揺るぎない愛と敬意が存在した。決して誰も傷つけず、客席全体を全肯定の幸福感で満たすアプローチは、多様性と個性の尊重が叫ばれる2026年現在のエンタメシーンの直接的なルーツと言っても過言ではない。
3. 楽屋裏で育まれた「師匠」としての顔:後輩芸人たちが語る無償の愛

吉本興業の楽屋において、二人の存在感は特別なものだった。若手芸人が不安を抱えて出番を待つ中、声をかけ、手作りの差し入れを渡し、惜しみないアドバイスを贈る。その温かな人柄は、単なる芸人としての先輩を超え、まさに「師匠」として多くの後輩たちから深く慕われた。
現在、第一線で活躍する女性漫才師たちの中にも、「いくよ・くるよ師匠の楽屋での温かい一言がなければ芸人をやめていた」と振り返る者は少なくない。舞台上の激しい漫才と、楽屋裏で見せる深い慈愛。その二面性こそが、吉本演芸文化の底力を支えていたのだ。
4. 2026年のデジタル旋風:TikTokとYouTubeでバズる昭和・平成の漫才アーカイブ
近年、過去の演芸アーカイブ事業のデジタル化に伴い、昭和・平成の漫才映像が若年層へ一気に拡散している。特にショート動画プラットフォームにおいて、二人の高速かつ完璧に計算されたテンポの掛け合いが、Z世代やα世代の心を捉えて放さない。
「テンポが凄まじい」「衣装が一周まわってハイブランドみたいでカッコいい」といったコメントが溢れる現象は、単なる懐古趣味ではない。普遍的な面白さは、時代やメディアの形を超えて自ずと評価されることを証明している。
5. 継承される「華」:現代女性コンビが受け継ぐDNA
劇場に立つ若手女性漫才師たちの衣装やマイク前の立ち姿を見れば、二人が拓いた道の広がりを実感せざるを得ない。マイク一本で大歓声を巻き起こす度胸、そして客席を一瞬で味方につける愛嬌は、確実に次世代へと受け継がれている。
「女だから」という枠組みを軽々と飛び越え、吉本新喜劇や演芸場の第一線で輝き続けた姿は、今やジェンダーを超えた「芸人としての理想像」として再定義されている。彼女たちが拓いた荒野は、今や後輩たちが伸び伸びと舞う大舞台となった。
6. 消えない情熱:私たちが今なお「どやさ!」を求める理由
今いくよ師匠、そして今くるよ師匠が旅立った後も、劇場に咲かせた大輪の花が散ることはない。殺伐としたニュースが飛び交う現代社会において、二人が体現した「底抜けの明るさ」と「人間愛」は、私たちが最も必要としている癒やしであり、救いだ。
劇場の照明が灯り、出囃子が鳴り響くとき、観客の心の中にはいつでもあの二人の笑顔が蘇る。「どやさ!」——その威勢の良い掛け声は、今日も誰かの背中を押し、笑いと共に明日への活力を与え続けている。 (出典: いくよ くる よ 師匠(Yahoo!ニュース))